ご存知の通り911カレラは駆動方式についてRRを採用し続けています。今回はその背景と理由について掲載していきます。
駆動方式について
詳細の話にいく前に、駆動方式についておさらいをしておきます。
クルマにはFF・FR・RR・MR・4WDと5つの駆動方式があります。これはエンジンが設置されている場所と駆動している車輪についての組み合わせを表しています。
駆動方式による特徴
各駆動方式の詳細は以下ページに記載しています。
ポルシェ911カレラがRRを採用する理由
それでは本題に入っていきたいと思います。
機能面
911カレラの前身ともいえる、ポルシェ356・VWビートルは1930年代に開発されました。当時効率の優れた乗用車を作るためには、流線型のボディで空冷のRR方式が最善でありました。これを911カレラは今日まで継続しています。
限られた車体寸法の中に広い車室を確保するには、ホイールベースの外にエンジンを追い出し、しかも駆動輪と一体化してプロペラシャフトを省略する必要がありました。
当時優れたジョイントが無かったこともあり、 FF方式は難しく、RR方式にするしかありませんでした。 オーバーハング部に積むエンジンを軽くするには当時の技術では水冷エンジンは重すぎたこともあり、空冷エンジンが選ばれることになりました。
RR方式ではラジエーターに効果的に冷却気を当てることが難しく、その分ラジエーターも大きくなります。これも軽量化の妨げになりました。
だからと言って冷却系だけフロントに置くのでは エンジンとの間に長い(重い)配管が必要であるし、せっかくRR方式化したのに流線型にしにくい。 流線型といえばなだらかなファストバックであり、車全体の重心も下がる。このようなことから、エンジンは水平対向が採用されました。
走りにおいてもRR方式にはメリットがありました。リアのグリップさえ徹底的に確保すればスポーツカーとしての優位性はますます保証されることになります。
RR方式の特徴であるテールヘビーは、後輪にかかる垂直荷重が大きく、加速時の路面への駆動力伝達に優れるという特質があります。速いコーナリングとは速い立ち上がり加速と同義語と言っても過言でないため、これは絶対な武器になりました。
商品面
商品性という点でもポルシェはRR方式を採用・継続しています。いや、RR方式を採用し続けているのは商品性の方が大きいのかもしれません。
商品性を維持するために、ポルシェの技術者がRR方式のデメリットを解消するような研究・開発を続けていると言う方が正しい評価かもしれません。
後席があることが大前提で世の中の実用を無視したMR方式のスポーツカーより優れること。これがポルシェ911カレラの使命なのです。
実用的な4人乗りの室内配置を可能にしたことで、この後席は人が長時間乗るには厳しくても、容量たっぷりの荷室として捉えれば非常に貴重な空間となりました。
ドイツでは高性能スポーツカーはGTとして評価されることも必要で、そのための実用性をコンパクトなボディで実演しているのはポルシェ911カレラの特徴にもなっています。
後席があるということの重要性は2シーターのクルマを保有すると実感します。用途に合わせてクルマを複数台保有することができれば良いのですが、一般的にはそのようにはいかず、2シーターのクルマで何から何までこなすことになります。
この場合、想像以上に不便なことがあります。後席があるクルマでは当然あることができません。カバンを置く、ダウンジャケットなどの上着を置く、雨の際に傘を置く、などを行う際に助手席に同乗者がいると対応に窮することになります。
クルマとしての機能としては小さなことですが、このような点でもRR方式のメリットは存在しています。
ポルシェは911カレラをRR方式から変更したいのか
改めて言うまでもなく、今やスポーツカーの基本レイアウトとしてRR方式のメリットはほとんどありません。ポルシェ以外の自動車メーカーがRR方式を一切採用していないことがそれを証明しています。
ポルシェ自身も早く伝統のRR方式に別れをつげたいと願っている(はずです)。しかし、それを安易に口にすることはできないから、実行も難しい。だからおそらく今後の911カレラもまたRR方式として作られることになるでしょう。RRこそポルシェ911カレラというファンの思い込みの壁はそれまでに熱く硬いのです。
ポルシェもそれは百も承知の上で色々な提案を試みてきました。ブランドの礎を築いた不屈の名作356の試作第1号車はミッドエンジンであり、RSスパイダーをはじめ勝利を欲しいままにしたレーシングカー群の大半を見ても彼らにとっての成果がMRであることは明らかです。
しかし、そのRR方式で356が成功を収め、世間の思い込みがその一点に修練してしまったため、大きく近代化した911カレラもRR方式でなければならず、それがまた成功した結果、さらに思い込みが増幅されてしまっています。
スポーツカーフリークの多くがまずスペックでクルマの良し悪しを判断するという傾向もそれを加速しています。それに対しポルシェも持てる能力と執念全てを注いで改良を重ね、ここまでRR方式特有の欠点を取るなど、思い込みの背中を押す形になってのも事実です。ある意味で「RR方式の負の連鎖」から誰も抜け出せなくなってるのが現状です。
そのような中でロードカーの実績を振り返っても、初のMRである914、924・944・968・928などのFRモデルなどのRR以外の提案は軒並み大きな成功を収められずに終わっています。最近でもボクスターやケイマンなどMR勢はまだ主役の座を911から奪い取れていません。
ポルシェカレラ911のRR方式から脱却の流れ
カレラGTが出たあたりでいつかポルシェはRR方式を手放すかと思いました。しかし、その後のハイパワー化、安定思考などにより4WDのグレードが増えてきていることもあり、ポルシェはRR・MR・4WDの3方式をうまく使いこなしていくことになります。
911カレラ(992型)が登場し全てのクルマがターボ化され、ボクスター・ケイマン(718型)が4気筒エンジンを搭載するなど、各モデルがそれぞれの特徴を活かし、このままのラインナップで継続するこのが現時点では最善と言えます。ポルシェのマーケティング力は本当に長けています。
まとめ
RR方式はユニーク性はあるものの駆動方式としては現時点では最良な方法ではありません。それはポルシェも当然理解をしています。
しかしながら、商品性として実用性を持つスポーツカーであり続ける必要がある911カレラにとっては、RR方式以外の選択肢はありませんでした。
最適な方式ではないRR方式に対し、ポルシェの研究・開発陣が徹底的に改善・改良を加えた結果、商品性とクルマとしての性能を両立した名車ポルシェ911カレラが存続し続けています。
最新の911カレラはRR方式のデメリットを感じないほどのレベルにあります。また駆動方式として優れるMR方式を採用するケイマン・ボクスターに比べ、911カレラは音などの官能性や操作感においても優れています。
ポルシェの研究開発部門、マーケティング部門の優れた能力によって実用性を持ちながらスポーツカーとしてのレベルも最高峰で居続けているのが、911カレラなのです。
コメント
知らない内容もあり、楽しませていただきました。
ポルシェのブランドイメージは良くも悪くも昔も今も911がほぼ一手に引き受けてるので、911の仕様変更は極めて保守的にならざるをえませんよね。
356含め開発の出発点から面白いと感じましたが、そのまま足かせや矛盾をかかえたままで開発を続けた結果、ここまでユニークで他に代替できないプロダクトになるとは本当に興味深いです。
もはやそのようなストーリー自体が私を含め911やポルシェという自動車メーカーを敬愛するユーザー層を厚くしている(ポルシェ沼)と思われ、ブランドイメージもさらに高まってる気もします。そうなると、余計に他のモデルが大胆に変わったとしても911だけは変われないでしょうね…。本当に珍しい企業だと思います
閲覧ありがとうございます。
本当ですよね。ハード面ももちろん強いですが、ポルシェのブランド力には感心させられることが多いです。