ポルシェ911(996型)のラインナップについてお届けします。
水冷エンジンを初めて採用したポルシェ911。
様々な要因があったとはいえ、これまでの空冷エンジンの採用を諦めたことにより、大きな苦戦を強いられました。
996型の概要
911カレラの名称と後部配置の6気筒水平対向エンジン以外は、これまでの911とまったく異なるものとしてデビューを果たしました。
環境問題、メーカーの経営問題などから大きな変化をもたらしましたが、以下のような理由で当初市場からは大きく評価されることはありませんでした。
水冷エンジンの採用
環境性能向上と高性能化を目的に、ポルシェ911初となる水冷エンジンを搭載。
排気量は3387CCと993型と比べて小排気量化をしながらも、300ps/35.7kgという高スペックを発揮。
環境に良く、ダウンサイジングされた上に、高パフォーマンスを発揮するなど、言葉的には良いことだらけでしたが、911ファンからするとこれまでの911と大きく異なることが受け入れられず、低評価な状態が続きました。
これまでの911らしさの欠如
デビュー当初の初期型はボディ剛性、脚回り、エンジンとこれまでの911らしさが失われており、水冷エンジン採用とともに否定的な意見が多く出ました。
中途半端な対応
高性能化のために水冷エンジンに変更されましたが、996型のスペシャリティグレードであるターボ・GT3などのエンジンはこれまでの空冷エンジンのクランクケースを採用するなど、やっぱり空冷エンジンが良かったのではないか?と感じるような中途半端な対応も良くありませんでした。
明確なコストカット
極め付けはこちらです。初期型は、フロントフード・ヘッドライト・テールライト・フロントフェンダー・ドア、さらにはフロントサスペンションなど、下位モデルのボクスターと同じパーツが使用されました。これは明確なコストカットと市場に受け取られてしまいました。
このようにデビュー当時低評価であった996型ですが、マイナーチェンジをきっかけに様々な対応をした結果、後期モデルでは評価も上がり、過去最大級の人気モデルとなった997型にその流れを引き継ぐことになりました。
996型のヒストリー
年月 | イベント |
1997/4 | フランクフルト・ショーでワールドプレミア |
1998/1 | 911カレラ発売 |
1998/4 | 911カレラカブリオレ発売 |
1998/10 | 911カレラ4発売 |
1999/3 | 911GT3発売 |
2000/3 | 911ターボ発売 |
2001/6 | 911GT2発売 |
2001/12 | 911カレラ4S発売 |
2003/9 | 911GT3RS発売2000台限定のホモロゲーションモデル |
996型のグレード
911カレラ
911の新たな歴史を踏み出した1台 ・水冷エンジンを搭載した新世代911 ・トランスミッションは6MTとティプトロニックSを採用 ・ホイールは17インチを採用 ・エクステリア同様、インテリアも一新 ・部分レザー仕上げのシートは標準装備 ・レザースポーツシートはオプション ・前期:3387ccで300ps/35.7kg ・後期:3596ccで320ps/37.6kg
911カレラカブリオレ
オープンボディゆえの安全設備を装備 ・ポップアップ式のロールバーやサイドエアバックなどを標準装備 ・3層構造の電動開閉式ソフトトップは、わずか20秒で開閉 ・アルミ製のハードトップも標準装備
911カレラ4
標準ボディモデルにNA+4WDを搭載。ティプロトニックSも設定。 ・出力は911カレラと同様 ・フルタイム4WDシステムは、状況に合わせて3〜35%程度のパワーを自動配分 ・LSDは993型に引き続きビスカス・カップリング式を搭載 ・RRモデルからの重量増加は55kg ・ティプトロニックSの採用にもより、996型の4WD比率は50%を越えた
911カレラ4カブリオレ
カレラ4と同時にリリースされたオープンモデル ・ポルシェ4WDとしては初となるティプロトニックSを採用(カレラ4も同様) ・ティプトロニックSによって、911をより気軽に楽しむことができるようになったモデル
911カレラ4S
ベスト・オブ・996の呼び声高い完成度 ・2001年に登場 ・ターボシャーシにNA+4WDの組み合わせはいつの時代も高評価 ・996型の低評価を払拭したモデル ・リアガーニッシュが赤く左右に繋がっているため、パッっと見993型に見えるのも人気の理由 ・ターボとのエクステリアの大きな違いは、大型リアウィングが取り外されていることと、リアバンパーのインテークが備わらない点のみ
911カレラ4Sカブリオレ
必要充分なパワーと余裕のあるシャーシ ・強大なパワーを受け止めるターボシャシーならではのボディ ・ターボ仕様からセッティングされたサスペンションで絶妙なバランスを構築したカレラ4Sのオープンモデル ・排気量3596ccで320ps/37.6kgを発生するエンジン
911タルガ
クーペベースで剛性向上。ガラスルーフを採用。 ・993型ではカブリオレベースとしたが、996型はクーペをベースとしボデイ剛性が向上 ・993型から採用されたスライディング・ガラスルーフを装備 ・リアウィンドウは大開口のガラスハッチ ・大開口のハッチにより大きな荷物の搭載などの使い勝手にも優れ、シリーズ随一の実用的モデル ・開閉可能なリアウィンドウは911初
911ターボ
満を持して登場したハイバワーモデル ・カレラ4をベースとする四輪駆動シャシーに専用のワイドボディを装備 ・大型のエアダクトやリアウィングも標準装備 ・レンズカットは違うが後期型ヘッドライトをひと足早く採用 ・四輪駆動と6速MTを標準装備 ・希望に応じて5速ティプトロニックSを用意 ・空冷クランクケースを用いる3600ccフラット6にKKK製ツインターボ搭載 ・420ps/57.1kg ・0-100km/h加速:4.2秒(Tips4.9秒) ・最高速度は305km/h(Tips298km/h)
911ターボカブリオレ
ターボ+カブリオレを正式ラインナップ ・ターボエンジン搭載車のオープンモデルは特別生産を除き初めて ・エンジンスペックやティプトロニックSの採用などクーペ版と同様 ・オプションで純正ロールゲージの装着が可能 ・0-100km/h加速:4.3秒(Tips4.9秒) ・最高速度:305km/h(オープン時290km/h)
911ターボS
ハイパワーをAT+オープンでも味わえる ・2004年に登場 ・日本への正規輸入された台数は数十台と言われており、とても希少なモデル ・ターボをチューンナップしスペックをさらにアップし、450ps/63.2kgを発揮 ・0-100km/h加速:4.2秒(6速MT) ・最高速度:307km/h ・タイヤサイズはフロントが225/40ZR18、リアが295/30ZR18
911ターボSカブリオレ
ユーザのニーズに幅広く応えるためラインナップを充実 ・ターボ・カブリオレのカタログモデルの追加同様、ターボSもカブリオレを設定 ・ハイパワーモデルにもラインナップされているところも996型の特徴 ・ティプトロニックSも設定
911GT2
ポルシェのフラッグシップとなる怪物 ・カタログモデル最強スペックのGT2 ・ターボをベースにエンジンチューンと2WD化によって100kg軽量化 ・排気量は3600cc。出力はツインターボ搭載により462psを発揮 ・トランスミッションはクロスレシオの6速MTのみ ・タイヤサイズはフロントが235/40ZR18、リアが315/30ZR18。
2003年登場のクラブスポーツクーペは、0-100km/h加速:4.0秒。最高速度は319km/h。
911GT3(前期)
サーキット走行前提の公道走行バージョン ・ポルシェカップなどの参戦ユーザー向けに、カレラ4の4WDボディにRRレイアウトを採用 ・ボディ補強やハードなサスペンションのセッティング ・予想を超えた受注となり、1898台を生産 ・当初1400台限定で生産されることが予定されていたが、予想外の人気で増産 ・10スポークデザインの18インチ軽合金製ホイールを装着 ・後期型と外観上の違いは、U字型に見えるリアウィングとヘッドライトの形状
911GT3(後期)
さらに戦闘力を増した後期モデル ・高い評価を得たGT3だったが、排ガス規制や生産性の問題から2002年モデルには用意されず ・2003年にようやくカタログモデルとして復活 ・後期型では、パワーアップと同時に空力パーツの見直しによりリフトを軽減 ・空冷エンジンなどと同じサンドイッチ式クランクケースを採用 ・前期型は360s/37.6kg、後期型は381s/39.3kg ・0-100km/h加速:4.5秒
911GT3RS
GT3ベースの200台限定ホモロゲーションモデル ・GT3をベースに、フロントボンネットやドアミラーをカーボン製、リアウィンドウは強化プラスチック製とし軽量化 ・サスペンションの専用セッティングも施された限定モデル ・0-100km/h加速:4.4秒 ・最高速度:306km/h
アニバーサリーエディション
911誕生40周年限定モデル ・2003年、1963台限定のスペシャルモデルとして登場 ・ベースはカレラ ・3596ccフラット6をエンジンを搭載し、最高出力は345ps。最大トルクは37.7kg ・駆動方式はRRで、LSDを標準装備 ・6速MTのみを採用 ・カレラGT専用のGTシルバーメタリックを身にまとい、ターボタイプのフロントバンパーを備える
マイナーチェンジ前期・後期
水冷エンジンが3400cc(300ps)から、3600cc(320ps)へと排気量と出力がアップされた。
1996年登場のボクスターと共有化が図られた前期モデルの涙目型ヘッドライトは、911ファンから不評をかったため、2002年のマイナーチェンジで、ターボモデルで採用されたデザインのものを全車に装備。
まとめ
メーカー側の様々な事情により大きく変わったクルマとなった996型、いつの時代もプロダクトアウトの発想は市場に受け入れられず、低評価な時期が続きました。
ボクスターと共用されて評判の悪かったフロントフェースを変更したこと、911カレラ4SやGT3の高評価などを経て、後期モデル頃にはだいぶ市場に受け入れられました。
最後まで人気があるとは言えなかった996型ですが、その反省がのちの997型に生かされているという点では、失敗ばかりでは無かったと言えるかもしれません。
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