以前500Eの試乗記を記載しました。今回は500Eの概要を掲載していきます。
500E誕生の背景
メルセデス史上に残る歴史的名車
最大のエピソードは開発と製造にポルシェが深く関わったこと
ポルシェが関わったのは、500E専用の開発やシャシー&セッティングなどが中心です。そのおかげもあり、スポーティに乏しいと言われ続けたメルセデスにドライビングプレジャーを与えることができました。
独特な製造方法によって製造
以下のような独特な方法で製造されました。諸説ありますが、前期型のみがこの工程で製造されたと言われています。
・まずシュットガルト郊外のメルセデス・ジンデルフィンゲン工場でボディ組み立てや塗装・内装組み込みなどを実施。 ・エンジン・足まわりなどのパーツとともにポルシェのツッフェンハウゼン工場まで運搬。 ・ポルシェで最終アッセンブルをしてから再びジンデルフィンゲン工場に戻し、そこで完成検査。
これは日産約12台程度の少量生産車で、しかも当時ポルシェの製造ラインに空きが多かったからこそ実現できた夢の製造体制です。
いずれにしても500Eは、ポルシェ・ビルド&メルセデス・クオリティという、最強のダブルネームによって生み出せた歴史的名車となっています。
ポルシェが関与した理由
1980年代の末、ポルシェは業績を伸ばせない状態でした。928などの水冷モデルがどうしても売れなかったのがその理由です。
そこでメルセデスはポルシェに対し500Eの開発と製造を委託しました。このような背景もあり、ベンツとポルシェというダブルネームの夢の取組みが実現しました。
製造にあたっては、ポルシェの工場にホワイトボディを持ち込み、ボディ補強から始めるというAMGと全く同じプロセスを採用しています。
500E概要
500Eは、構成自体がノーマルのW124(Eクラス)とは全く異なっています。
V8エンジンを搭載することを考慮していなかったW124ボディーに、当時最新の500SL用5L V8エンジンを搭載しました。
パワーをきちんと路面に伝えるため、足回りやシャシーも強化。ボディ前半部を作り替えた他、500SLとほぼ同じ構成のフロントサスペンションも組みまれています。
エンジン
300馬力オーバーの心臓部
注目の心臓部は500SLから移植された90度V型8気筒エンジン。基本スペックはSLと同様。
最高出力および最大トルクは92年モデルまでが330ps/5700rpm・50.0kgm/3900rpm、それ以降は325ps/5600rpm・49.0kgm/3900rpmというスペックを発揮。
エクステリア
前半部分を専用に開発
W124のボディにV8エンジンを搭載することを考慮していなかったため、500Eでは運転席とエンジンルームの間の壁より前のインナーボディは専用開発となりました。
またフロアパネルもボリュームのあるエキゾーストマニホールドや容量アップ触媒を収めるため、センタートンネルが大型化された新しいものに変更されました。これによりボディ剛性もアップされることになります。
500Eの特徴であるワイドフェンダー
トレッドが広がった理由は、SLのサスアームを使った他、ワイドリムの8J×16というサイズのアルミホイールを採用したためです。
またそれらにより500Eの特徴である張り出したオーバーフェンダーが生まれています。マニアにはすぐにわかりますが、一般の方には気づかないレベルでしょう。
足回り
SLの足回りでワイドトレッド化
サスペンションアームやブレーキまわり、そしてステアリング関係は基本的にSLシリーズのものを利用しています。
ちなみにブレーキはVディスクを採用し、スペックは、フロントが直径300mm・厚工28mm・4ピストン。リアが直径278mm・厚工24mm・2ピストン。
ローダウンで迫力倍増
ショックアブソーバーとスプリングは、通常のW124と比較し、約30mmショートなものを採用。それにより、全高は約35mm低い1410mm。また姿勢も前後のラインが水平に近くなってます。
また、ショックアブソーバー自体も最初の入力時は柔らかく、そのあとさらに沈み込むと減衰力が高くなる(堅くなる)ようにセッティングされています 。
理想的な前後バランス
フロントに重いV8を詰め込んだため、極端なフロントヘビーかと想像されますが、実際には500Eの前後バランスは悪くありません。悪くないどころか理想的な50対50となっています。
また、沈んだリアを一定の車高に保つために、リアサスペンションには油圧式のハイトコントロールも導入されています。
内装
乗車定員は 4名
500Eのフロントシートは190の2.5-16やスポーツラインなどと同様に、足や腰をサポートする部分が大きく張り出したバケットタイプ が採用されています。
またリアシートもサポート性を重視したためと、センタートンネルを大型化したために完全に2人用となっているのが特徴です。つまり500Eはの乗車定員は4名となります。
センター トンネルが大型化
ボディの基本となるフロアパネルも500Eでは専用となっています。二重構造の排気管 2本を取り回した上、それ用の触媒を収めるためにセンタートンネルが大幅に大型化されています。
リアシート間に小物入れを装備
2人乗りとされたリアシートの間には、スライド式の蓋を持つ灰皿付き小物入がが装備されています。
特徴的なシフトパターン
500Eのシフトリンケージには「P-R-N-D-3-2」に加えて「B」というポジションがあります。
急な坂道や、ワインディングロードなどを下る時にエンジンブレーキが欲しい時に活用するもので、車速が約40km/h以下になると自動的に1速にチェンジし、そのまま60km/hに達するまで1速をキープする仕組みになっています。
クライメントコントロールを採用
その他のW124とは異なり、オートマチック・クライメートコントロールを採用しているます。希望の温度を設定するだけで自動的に暖房を冷房を繰り替えてくれるという優れものです。
システム
高性能なASR
標準で装備されるトラクションコントロールシステム+リミテッド スリップデフ(ASR) が、全面的に見直されたインジェクションシステムと密接に連携しており、ホイールスピンやトラクション抜けが起こった場合、単純にエンジンパワーを絞るだけではなく、それに応じて触媒の作用が適正になるように燃料の噴射量と点火時期が調整され、さらに軽くリアのブレーキを利かせるといった凝った仕組みとなっています。
バッテリーはトランクに設置
狭いとは言えないW124のエンジンルームですが、V8エンジンを積み込む余分なスペースはありません。というわけで、重い上にスペースを取るバッテリーはエンジンルームからトランクルームへと移されています。
取り回し
幅の広いV8エンジンと、それに伴ったエキゾーストマニホールドの取り回しをクリアするために、ハンドルの切れ角は減らされましまたが、最小回転半径は5.5mとなっており、同じクラスの中では小回りが効きます。このあたりはさすがメルセデスベンツでもあります。
前期型と後期型の違い
年式毎に500Eは細かな変更があるため、前期後期の定義がいくつかに分けられますが、90〜92年式を前期、93〜95年式が後期とされることがメジャーです。そして、一般的に前期の方が作りが良いと言われています。
前期型(1550万円)
一般的に作りが良いと言われている理由が以下のような点です。
・前期型は最高出力が330馬力。後期型は燃費改善に伴い325馬力へ馬力がダウンしています。 ・足回りも差があります。前期型はキャリパーにブレンボ製が標準で装備されていますが、後期型はメルセデス製になっています。600SL用を採用。 ・前期型はヘッドカバーに酸化/サビを防ぐためのコーティングが実際されています。後期型は金属の地肌のまま。 ・エンジンの化粧カバーの「スリー・ポインテッド・スター」や、メルセデスのロゴも前期型は シルバーにペイントされてます。 ・ドライブベルトも変更されています。前期型の方は幅が太く裏の山が7本なのに対し、後期型は若干細めになり裏の山が6本になっています。
一番わかりやすい差分は、フロントマスクの変更をはじめとするエクステリアの変更です。
・グリルが先代Sクラス(W140)と同じようなスリムな形となり、それに伴いヘッドライトの形状もボンネット/グリルのカーブラインに合わせた造形を見せています。 ・フロントのウインカーのレンズカバーがオレンジからホワイトへ、テールライトが大人っぽい雰囲気のスモークタイプへ変更されています。 ・フロント/リアバンパーをサイドパネルと同色化。そしてトランクリジットの形状も変わっています。
後期型(1300万円)
後期型における変更点、特徴は以下の通り。
・500Eは93年モデルからエンジンマネージメントシステムが変更され、最高出力が325ps・最大トルクは49.0kgmとなり、ややパワーダウンをしてしまいます。 ・この頃から500Eの製造がポルシェ工場からメルセデスのジンデルフィンゲン工場の自製になったこととする説が有力です。 ・確かにブレーキキャリパーがブレンボ製の軽合金から一般的なものに変更されたり、ショックアブソーバーがビルシュタイン製1社から複数メーカーのものが採用されるなどの変更も同時期に行われているため、その説が正しいのではないかと思われます。 ・最終モデルとなった94年モデルでは名称がEクラスとなったことに伴い、500EからE500に呼称変更し、外観もフェイスリフトされました。 ・その他、93年モデルから助手席にもエアバックを装備。E500となった際に、マイクロフィルター、電動テレスコピック・ステアリング、10スピーカーサウンドシステムを装備。
E500の生産終了を記念して、500台限定のE500リミテッドも販売されています。
残念ながら日本向けに販売されませんでしたが、17インチのエボリューションⅡデザインホイール、3色用意されたツートンカラーの本革シート、ブラックのバーズアイ・メープルウッドパネル、チルト機能付きスライディングルーフなどでドレスアップがされました。
500Eは90年から最終的に95年までのわずか6年間しか生産されなかったモデルながら、多くの逸話を残し、過剰品質も感じられ、まさにメルセデスの逸品と言えるでしょう。
まとめ
ポルシェが製造に大きく関与したという奇跡のクルマ500E。ポルシェベンツとも呼ばれることがあります。
経営が苦しかったポルシェ、スポーティなクルマを作れなかったベンツ、それぞれの思惑が一致し奇跡の1台が製造されました。
W124ボディにSL129のV8エンジンを無理やり搭載したため、様々な独自開発が実施されました。それ故新車価格が1500万円を超えるという価格面でもスペシャルなクルマとなりました。
ポルシェの関与が大きかった前期型が人気ですが、エクステリアは後期型が人気のため、前期型のクルマもほぼ後期ルックとなっています。
そのため前期・後期のこだわりは今のタイミングでは気にする必要がなさそうです。伝説の名車も登場から約30年近くが経っています。このタイミングで一度体験されることを。オススメします。
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